第40回いしかわ情報システムフェア「e-messe kanazawa 2025」は2025年5月23、24日、金沢市の石川県産業展示館3号館で開かれ、77社・団体が AI や VR、XR といった技術を生かしたソリューションを紹介しました。印象的だったのは「絵に描いた餅」ではなく、業務上の具体的な題を解決するために製品・サービスが提案されていたこと。企業が限られた人員を最適に配置してパフォーマンスを維持・発展できるようにするため、会場内には最新技術の実装化で成長に貢献しようという熱気が満ちていました。

e-messe kanazawa2025会場の様子

目次

  • 生成AI「活用方針あり」は半数以下?
  • 企業ピックアップ(五十音順)
  • 【株式会社アイ・オー・データ機器】PCと縦に配置できる高解像度モニター
  • 【株式会社ジェイ・エス・エス】CADデータ活用で仮想空間に工場
  • 【株式会社システムサポート】AIが学習、情報発信や会話相手に
  • 【株式会社タスク】課題の抽出からサポート
  • 【日本ソフテック株式会社】社内限定のAI環境
  • 【株式会社別川製作所】3Dビューアー活用して遠隔で工場レイアウト確認
  • 【北陸通信ネットワーク株式会社】ネット回線とセキュリティーをセットで

 

生成AI「方針あり」は半数以下

今回のe-messeはテーマが「夢の世界がすぐそこに かなえる力ICT」でした。会場内ではパネル展示に加え、生成AIやVR用ゴーグルを使った体験コーナーを設けた企業ブースが多くみられ、来場者が「夢の世界」が現実になりつつあることを実感していました。

今や「生成AI」という言葉は、聞かない日がないほど日常に浸透しています。しかし、その便利さこそイメージされていても、どのように自社のビジネスに生かせば良いのか、という答えを見つけるに至っていない企業も多いのが現状です。

総務省が公表している「令和6年版 情報通信白書」によると、生成AIを活用する方針が定まっている国内企業の割合は42.7%で、アメリカやドイツ、中国が70%以上であるのと比べると、大きく水をあけられています。この調査は従業員数10人以上の企業が対象で、日本では大企業361社、中小企業154社が協力しました。中小企業や小規模事業者では、活用方針が決まっている企業割合はもっと低いでしょう。

ただ、本来はマンパワーが限られる小さな企業こそ、AI活用による恩恵が大きいのかもしれません。この点、今回のe-messe kanazawaでは、日々の仕事のうち、どんなルーティンを代替し、どんな付加価値を生めるかといったところを明示して最新技術の導入へ一歩を踏み出すよう促していました。

 

それでは、いくつかの企業の展示内容を紹介します。

企業ピックアップ(五十音順)

 

【株式会社アイ・オー・データ機器】PCと縦に配置できる高解像度モニター

株式会社アイ・オー・データ機器PC関連機器を手掛ける株式会社アイ・オー・データ機器は、2025年10月に予定されるWindows10のサポート終了に向け、新型モニターを前面に押し出してPCとセットで更新することを提案しました。

新型モニターはtype-Cで給電でき、PCとの間に必要なケーブルは1本のみなので、デスク周りがすっきりと片付きます。モニタースタンドとしての機能もあり、モニターを高い位置に設定すれば、モニターの手前でパソコンを開く配置で作業する場合でも、互いに干渉することなく快適に使用できます。また、解像度の高い規格「WQHD」となっています。これにより、たとえば27インチモデルではフルHDと比べた作業スペースの広さが1.8倍に広がったといいます。

コロナ禍でリモートワークが急速に進んだ際、自宅のPC環境を整えるため周辺機器の需要は高まりました。それが一巡した今、Windowsのサポート切れをフックに、さらに利便性の高まったモニターで需要を掘り起こそうとしています。

株式会社アイ・オー・データ機器の企業ページを見る

【株式会社ジェイ・エス・エス】データ活用で仮想空間に工場

株式会社ジェイ・エス・エスはVR技術を活用した製造業向けのサービスとしてCADデータから仮想空間上に工場を構築する仕組みを紹介しました。

株式会社ジェイ・エス・エス

ポイントはCADデータを使うために実際の建物や設備と寸法が同じになることです。建物でいえば、建てる前の図面の段階において、それで十分に安全な設計になっているかをチェックできます。作業者が工場内に立った際の視点で、通路の幅やフェンスの高さ、天井の高さなどを体感できるのです。建物だけでなく機械設備も同様です。その設計のまま作ったら日々の作業や部品の交換に支障が出ないか、具体的には作業者が手を伸ばして他の部品に引っ掛かるようなことがないかが分かります。建設や製造にかかるコストを下げ、試作や修正にかかる時間も減らせるソリューションです。

株式会社ジェイ・エス・エスの企業ページを見る

【株式会社システムサポート】AIが学習、情報発信や会話相手に

株式会社システムサポートはAI関連の技術を多く展示しました。

株式会社システムサポート

上の写真に映っているのは、特定の人物の短い動画からAIが顔や声の特徴を認識し、その人が話していない文章を作って読み上げているところです。この技術では情報のアップデートが可能なので、わざわざ動画を撮り直さなくても、いま世の中で起こっている事象を盛り込んだ最新の内容の発言ができます。たとえば、バーチャルなアナウンサーのような存在を生み出し、ニュースを読ませることが可能です。

さらに、過去に交わした会話を学習し、あたかも旧知の人間が向かい合って話しているような状況がつくれるため、一方通行の情報発信に加え、介護サービスを利用する人向けに双方向の話し相手として活用するケースなども見込まれるそうです。

このほか、特定の分野を専門にするAI「AIエージェント」や電子契約の仕組みなども提案しました。組織によっては便利なシステムに人間の働き方を合わせたり、逆に人間の働き方に合ったシステムを求めたりします。システムサポートはそれぞれの組織に適したソリューションをそろえています。

株式会社システムサポートの企業ページを見る

【株式会社タスク】課題の抽出段階からサポート

株式会社タスクは今回の出展に当たり、これまでのようにITツールを紹介するブースではなく、クライアントの課題を抽出してから解決に至るプロセスを、生成AIの力を活用しながら支援するビジネスを紹介しました。

株式会社タスク

AIの進化により、IT企業の仕事は様変わりしています。ある程度の問題解決はAIが瞬時にして担えるようになってきたからです。そこで、タスクはより上流に当たる課題を見つける段階にも重きを置いています。何がネックになっているのかを発見したら、それをシステム構築によって解決するのか、マニュアルを作ればよいのか、といった対応策を検討します。

いわば、システム開発をスタート地点に、問題発見・解決のコンサルティングにまで守備範囲を拡大しているイメージです。

とくに従業員数の少ない企業では、作業が属人化してしまいがちです。「まあ、Aさんがやってくれているから」と油断していては、Aさんが退職したり体調を崩したりした際に、会社全体の仕事が停滞しかねません。「何とかなっている」うちに手を打ち始めることが必要なのです。

株式会社タスクの企業ページを見る

【日本ソフテック株式会社】社内限定のAI環境を構築

日本ソフテック株式会社はAI関連がメインのブースを構えました。生成AI自体は普及してきたものの、何をどうすればビジネスで成果を生めるのか見つけられていない企業向けに、社内限定のAI環境を構築しています。

日本ソフテック

たとえば社外秘の規約や機密情報のような類をAIに記憶させた上でチャット画面に質問を入力すると、AIが膨大な規約から該当箇所を要約して返答してくれます。もちろんセキュリティー面にも配慮しており、データが外部に漏れることはありません。

人事部や営業マン、総務課など、会社では所属ごとにさまざまな決まりがあります。この仕組みを使えば、自分の手元の端末内に、そうした全ての社内ルールに精通した疑似的な社員を常駐させるようなもの。「えっと、こういう時の決まりが書かれたファイルは…」と探し回る必要がなくなります。

 

【株式会社別川製作所】3Dビューアー活用、遠隔で工場レイアウト確認

株式会社別川製作所は工場内のレイアウトを3Dビューアーによって手元のタブレット端末で確認し、それぞれの設備のマニュアルを把握できるソリューションを紹介しました。

株式会社別川製作所

工場内のセンサー情報、カメラ映像、マニュアルをデジタル化し、画面上に統合するイメージです。画面に映っている設備ごとにボタンが表示され、選択するとマニュアルを閲覧できます。自分が明日やる予定の仕事について、端末さえあれば現場に行かずともシミュレーションができ、不明点はマニュアルで確認できます。

また、関係する全員が現場にいなくても良く、また人間1人が複数の工場を管理することが容易になるため、省人化や省資源化につながります。たとえば、別の工場にいる上司に対して工場設備について報告する際も、上司側が端末を通じて工場内の正確なレイアウトを把握していれば、部下はテレビ電話で片手をふさぎながら説明しなくても済み、円滑なコミュニケーションが可能になります。

XRグラスを活用し、作業者が目の前の仮想ディスプレイに情報を表示しながら現実の工場を見ることもできます。

株式会社別川製作所の企業ページを見る

【北陸通信ネットワーク株式会社】ネット回線とセキュリティーをセットで

北陸通信ネットワーク株式会社は「クラウド」をキーワードに各種サービスを紹介しました。企業規模の大小を問わず情報漏洩のリスクは高まっており、実際に流出してしまった例は枚挙に暇がありません。

そこで、北陸通信ネットワークは企業がPC内に保管しているデータを、インターネットと切り離された閉域接続でクラウドに移せる仕組みを提供しています。ネット回線とセキュリティーをセットで用意できるのが同社の強みとなっています。

北陸通信ネットワーク株式会社

ネット回線とセキュリティー機器のパッケージは、月額およそ2万円からと料金を低く設定しています。中小企業でも導入しやすくするためです。このパッケージを使えば、大切な顧客データや機密データをサイバー攻撃から守ることができます。

また、製造業向けのビジネスチャットでは、社内での情報共有を円滑にするほかに「ゲスト」という形で取引先も参加できるようにしています。社員個々が私用のスマートフォンを使ってチャットをやり取りするケースもありますが、私用の端末はセキュリティー対策が弱い場合があり、情報漏洩のリスクが高まります。社用の端末で社内外とコミュニケーションをとれるビジネスチャットは、単に便利なだけではなく、企業をリスクから守ることにもつながります。

北陸通信ネットワーク株式会社の企業ページを見る

 

著者プロフィール

国分紀芳(くにわけきよし)

Seeds合同会社代表社員。1985年、石川県生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社へ入社。経済記者として北陸新幹線開業、ホテルやマンションの開発ラッシュ、大型商業施設の相次ぐ進出などを取材する。2022年2月に独立後は各種ライティングやPRコンサルティングなどを手掛ける。https://connect-u.biz/

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