MEX金沢2025(第61回機械工業見本市金沢)が2025年5月15日から3日間、金沢市の石川県産業展示館1、3、4号館で開かれました。今年は過去最多の279社・団体が出展。人手不足が慢性化する中、出展者は現場のデジタル化によって生産性を向上させ、持続可能な製造業の確立につながるソリューションを提案していました。(国分紀芳)

MEX2025_会場

 

目次

  • 3日間で3万人超が来場/学生向けの企画も実施
  • 半数以上の企業が「人手不足」
  • 企業ピックアップ(五十音順)
  • 【株式会社アクトリー】排熱活用の事例、学生向けに紹介
  • 【オリエンタルチエン工業株式会社】錆びないよう加工した鉄製チェーン
  • 【株式会社ソディック】回転ワイヤで加工、環境にも配慮
  • 【大同工業株式会社】「モノの移動」支援で人手不足対策に
  • 【株式会社東振精機】ベアリングのローラー作る機械まで作る
  • 【中村留精密工業株式会社】中小工場に合うコンパクトCNC旋盤
  • 【北菱電興株式会社】身近なDXを提案
  • 【株式会社横山商会】農業データ化で持続可能に

3日間で3万人超が来場/学生向けの企画も実施

5年ぶり通常開催だった昨年よりもさらに規模を拡大した今年、来場者数は3日間で33,181人を数えました。

平日開催時は社会人に混じって学生の姿も目立ちました。今回のキャッチコピーは「技術が切り拓く、未来の鼓動」で、これからのものづくりを担う学生たちに石川県・北陸の製造業への理解を深めてもらおうと、会場では学生特別企画が実施されました。

32社が取り組みに賛同し、それらの会社のブースを訪問した数に応じて特典が付与されます。3社を訪れた大学生・大学院生・高専生・短大生・専門学校生には会場内で使える食事券500円分とQUOカード500円分、4社以上を訪問した学生には食事券500円分とMEX金沢特製QUOカード1,000円分が贈られました。

最終日の土曜は幼い子どもを連れたファミリーの姿も多くみられました。真剣な眼差しで商談や採用関連活動が繰り広げられる平日とは打って変わり、会場内には和気あいあいとしたムードが漂いました。出展者は子どもたちにお菓子を配ったり、ロボットが動く仕組みを平易に説明したり。「いつか石川県のものづくりを支えてくれる人材になって」。これも未来のための大切な種まきです。

半数以上の企業が「人手不足」

さて、製造業の現場を語る上で欠かせないのは、人手不足への対応です。
総務省の統計によれば、2024年の労働力人口は6,957万人で過去最多となっています。これは総人口が減る一方で女性や高齢者、外国人の活躍が進んだためですが、人手の充足感は業種や個別の企業によって濃淡があります。

信用調査会社の帝国データバンクが2025年5月に発表したレポートによると、人手が不足していると感じている企業の比率は51.4%(2025年4月時点)で、過去最高水準となっています。その中でもIT、建設、運輸・倉庫などは正社員の人手不足感があるとした企業の比率が60%を超える高さです。

こうした背景をもとに、MEX金沢2025では、人間と協働するロボットの導入で1つの工程に関わる人数を減らしたり、熟練の社員が一手に担ってきた作業をデータ化して経験の浅い社員も同様の工程を担えたりするソリューションなどが示されました。

また「DX」という言葉にハードルの高さを感じて二の足を踏む中小企業もある中で、たとえば「人間ができないことはないけど、ちょっと面倒」という身近な課題を解決するのを皮切りに、オフィスのDX化を加速させようという提案もみられました。

それでは、いくつかの企業をピックアップしてみましょう。

企業ピックアップ(五十音順)

【株式会社アクトリー】排熱活用の事例、学生向けに紹介

焼却炉メーカーの株式会社アクトリーは主に学生向けのブース構成とし、過去の納入実績に加え、排熱を活用した各種の取り組みを紹介しました。

MEX2025_アクトリーアクトリーの焼却炉は北海道から沖縄まで全国で稼働しています。最大で1日に250tを処理する能力があり、これは金沢市で1日に出るゴミの量に相当し、また焼却時に出た水蒸気による発電量は、野々市市全体で使用する電力をまかなえるといいます。

それだけ巨大な設備から出る排熱や冷却水などをどう生かすか。この点、アクトリーのブースで特に目を引いたのは「アワビの養殖 2倍速!」と書かれたパネルと実物のアワビです。ごみを焼却する過程で使う冷却水を活用してアワビを養殖すると、天然ものの2倍の速さで大きくなります。このアワビは料亭でも採用されており、現在はトラフグの養殖も試みられています。

ごみの焼却施設は周辺地域から良く思われないこともありますが、アクトリーは単にごみを燃やして処理するだけでなく、排熱や冷却水を活用して新たな付加価値を生み出し、地域社会に貢献しようとしています。

株式会社アクトリーの企業ページを見る

 

【オリエンタルチエン工業株式会社】錆びない加工の鉄製チェーン

MEX2025_オリエンタルチエン工業チェーン製造のオリエンタルチエン工業株式会社は鉄をコーティングした「高耐食性表面処理三層コート」のチェーンを展示しました。鉄は硬くて錆びやすく、逆にステンレスは錆びないけれど柔らかくて変形しやすいという性質があります。そこで、鉄の表面をコーティングし、水のかかるような産業機械用途でも使えるようにしました。

また、油をさす工程が大幅に省ける「無給油チェーン」も製造しています。コーティングしたチェーンと共通するのは、業務を効率化するという観点です。コーティングはチェーンの耐久性を高め、無給油はメンテナンスの頻度を少なくします。製造現場が人手不足に苦しむ中で、必ずしも手作業でなくてもできる作業は、機械に置き換えるか、そもそもの必要回数を減らすことで対策でき、これらチェーンは後者につながります。

さて、近年の石川県内では物流センターの建設が相次いでいます。こうしたセンターで取り扱う荷物は業務用だけでなく、ECを活用した個人向けの小口荷物であることもあります。ダイレクトに消費者の手元へ届く荷物を傷つけないよう、センターで荷物が流れるレーンで使うチェーンには、金属部分にカバーをつけた製品もあります。

「チェーン」というと既に開発され尽くしたジャンルのように思うことがあるかもしれませんが、技術の進歩や生活様式の変化に合わせ、新しい製品が次々と生み出されています。

オリエンタルチエン工業株式会社の企業ページを見る

 

【株式会社ソディック】回転ワイヤで加工、環境にも配慮

株式会社ソディックはワイヤ放電加工機の最新機種を出展しました。ワイヤに電気を流して対象物を溶かす工作機械です。

MEX2025_ソディック特徴はワイヤが回転しながら加工すること。これによってワイヤが均等に消耗するようになるため、特定の箇所だけが消耗してワイヤを交換する場合と比べ、ワイヤが長持ちし、交換頻度が下がります。ワイヤの消費量を抑えるとともに、加工時間や使用電力量を従来比で20%削減できるといいます。

ソディックが得意とするのは、目に見えないほど小さな微細加工の分野。このワイヤ放電加工機は自動車向けを中心に、宇宙産業やスマートフォン向けでも活用されています。

また、ソディックではワイヤのリサイクルも手掛けています。使用量を抑えるだけでなく、使い終わったワイヤにまた命を吹き込んで再利用する、環境に配慮した取り組みです。

株式会社ソディックの企業ページを見る

 

【大同工業株式会社】「モノの移動」支援で人手不足対策に

金属や樹脂でできた機械やパーツが並ぶMEXの会場にあって、木製の什器を展開してひときわ目を引いたのが大同工業株式会社でした。チェーンのメーカーとして知られていますが、今回はSDGsやサステナブルといったテーマを設定。あえて実車を展示せずに事業の幅広さをPRしました。

MEX2025_大同工業大同工業の事業ドメインは狭義でいうと「チェーン製造」ですが、広義で捉えると「モノを動かす(移動させる)」と言えます。高齢化が進んで労働力が不足する中、限られた人員をどうしても必要な工程・作業に割り振るため、大同工業は必ずしも人間が担わなくてもよい作業を代替するソリューションを提供しています。

その一例が工場内の搬送ロボットで、部品を載せて工程間を結ぶ役割を果たします。もともと、部品が入った箱を人力で持ち運ぶには、作業者の腕力や体力によって効率性が左右されがちです。しかし、搬送ロボットならば性別や体格、年齢にかかわらず同じ時間で同じ作業をこなせる利点があり、工場内の人員配置の最適化につながります。

また、大同工業が日本国内で初めて作った「いす式階段昇降機」も展示しました。高齢人口が増加する中、モノだけでなくヒトの移動も容易にすることで社会課題の解決に貢献しようとしています。

大同工業株式会社の企業ページを見る

 

【株式会社東振精機】ベアリングのローラー作る機械まで作る

株式会社東振精機はベアリングの内部にある「ローラー」のメーカーです。円柱を少し膨らませたような形で、建設機械やエレベーターに使われる「球面ローラー」では国内シェア8割、海外シェア4割を誇っています。MEXでは球面ローラーをはじめとした各種ローラーを展示していました。

MEX2025_東振精機そもそもベアリングは回転する機械部品の摩擦抵抗を減らし、スムーズな動作を支えるための部品です。そのため、ベアリングを構成するローラーの形状にも高い精度が求められます。具体的にはローラーの断面が真円に近ければ近いほどベアリングがスムーズに動作することになります。この点、東振精機ではサブミクロン(1万分の1mm)単位での加工に対応し、可能な限り真円に近付けています。

さて、東振精機の特徴の1つは、単にローラーを製造するだけでなく、グループ企業がローラーを研削するための機械自体を作っている点にあります。そうした機械は東振精機が300台ほど稼働させて日々の業務を通じて改善を続けており、さらに性能を向上させています。そうした取り組みの結果、現状の加工スピードは世界最大手と比べても2倍の速さを実現し、ニッチトップ企業の座を盤石にしています。

株式会社東振精機の企業ページを見る

 

【中村留精密工業株式会社】中小工場に合うコンパクトCNC旋盤

工作機械メーカーの中村留精密工業株式会社は、材料を回転させながら自動で切削加工する「CNC旋盤」のコンパクト版を展示しました。

ものづくり企業が工場内の高付加価値化を考えたとき、1つの解決策として空きスペースの有効活用が挙げられます。ここに注目した中村留精密工業は「限られたスペースを価値に変えよう」と唱えてきました。

ここで問題になるのが、とくに日本国内の町工場で仮に空きスペースがあっても広くはないという実情です。そこで、加工室内の広さを従来製品と同等に維持しつつ、横幅1.66m,、奥行き1.67mという省スペースで設置できる製品を作ったといいます。MEXでは、このコンパクト版のCNC旋盤「AS-200」を北陸で初めて展示していました。MEX2025_中村留精密工業

また、工作機械や工具の破損・予兆検知を行うAI/IoTソリューション「Dr. Tool」も紹介しました。切削に用いる工具は、みな一様にみえて実は微妙な差異があります。そのため摩耗状況も個々に違いが生まれるのですが、このソリューションを活用して工具の摩耗状況を見える化し、工具が折れる前に交換することで、製造品の不良率を下げることが可能になります。

中村留精密工業株式会社の企業ページを見る

【北菱電興株式会社】身近なDXを提案

「DX」や「AI」という言葉は、ひと昔前と比べると一般的になってきました。とはいえ、どのように自分たちのビジネスに生かせば良いか、答えに至っていない企業が多い現状もあります。そこで、北菱電興株式会社は身近な業務からデジタル化を始め、業務効率をアップさせるソリューションを提案していました。

人間が日々当たり前のように従事している作業の中には、手間が多い割に成果が目立たないものがたくさんあります。たとえば、会議の際の議事録作成がそうです。もしも全てを人力でやるとすると、録音データをパソコンで文字に起こし、内容を精査して情報の優先順位をつけ、書類にまとめて…という作業が必要です。

MEX2025_北菱電興参考出典した「議事録生成アプリ」は話し手の声のトーンや強弱、内容をAIが分析し、自動で議事録を作成できます。人力に頼っていると、文字起こしのスピードや情報の取捨の巧拙などが人によって異なりますが、アプリを使えば誰でも同程度の議事録をスピーディーに作成できるようになります。アプリで作成した議事録は後で人間がチェックし、過不足があれば修正する流れです。

同じく展示していた図面検索ソフトはPDFになっている図面から文字を抜き出して認識できます。たとえば、何かの必要で昔の図面を参照するため、パソコン上でキーワード検索する場合、通常はファイル名などに同じ文字がないと引っ掛かりにくいものですが、このソフトを使えば、PDF内にある手書きの文字までもピックアップして検索結果に反映させられるそうで、膨大な数のファイルを手当たり次第に開くような作業が不要になります。

北菱電興株式会社の企業ページを見る

 

【株式会社横山商会】農業のデータ化で若手も就農可能に

「望(のぞみ)」。株式会社横山商会が今回の自社ブース作りのために設定したテーマです。人手不足感が強まる中、協業ロボットなど省人化につながるソリューションの数々を紹介し、未来に向けた産業の維持・発展へ希望を持たせるような内容としました。

MEX2025_横山商会とくに大きく展開されていたのが、農業従事者が遠隔で土壌の状況をモニタリングできる仕組みです。スマートフォン版とクラウド版があり、温度や水分率、養分の状態などを画面上で確認できます。一次産業は高齢化が進んでいます。農地へ足を運ぶ回数を減らせれば、農業を継続しやすい環境づくりにつながります。

また、経験がモノをいう状況は若者の新規就農を阻むハードルとなる恐れがあります。この点、土壌の状態と作物の出来・不出来をデータ化して関連付けられれば、若者でもベテラン農家に近い収穫量を確保できる可能性があり、新規就農を促す材料になります。

このほか、押すことで自己発電するボタン、繰り返し使える生分解性ラップ「イイコトラップ」など、省エネルギーや環境配慮型の商品も展示し、耳目を集めていました。

株式会社横山商会の企業ページを見る

 

著者プロフィール

国分紀芳(くにわけきよし)

Seeds合同会社代表社員。1985年、石川県生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社へ入社。経済記者として北陸新幹線開業、ホテルやマンションの開発ラッシュ、大型商業施設の相次ぐ進出などを取材する。2022年2月に独立後は各種ライティングやPRコンサルティングなどを手掛ける。https://connect-u.biz/

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