不室屋の新たなロゴマーク

新たなロゴマーク

株式会社加賀麩不室屋(金沢市)は創業160周年に当たる2025年、社名を「株式会社不室屋」に変更しました。伝統的な麩の製造販売に加えて新商品の開発や飲食事業を進める中、あえて「加賀麩」の文字を外し、枠にとらわれない事業展開を推進してゆく姿勢を明確にしました。(国分紀芳)

社名変更は8月21日付。社名が変わるのは1979(昭和54)年以来、およそ50年ぶりとなります。あわせてロゴマークも一新し、力強く流麗な筆致のデザインとしました。

さらに、不室康昭社長は「六代 不室六右衛門」を襲名しました。不室屋は初代・不室六右衛門が創業したことに端を発します。しかし、代々の社長は自身の氏名で活動してきました。六右衛門の襲名は康昭氏が初めてとなります。

社名変更とロゴ刷新、六右衛門の襲名。それらを合わせると、幕末から明治、大正、昭和、平成、令和と紡いできた歴史を大切にしながらも、決して長い歴史に安住することなく、時代とともに変化する消費者の需要に柔軟に対応するという意気込みが感じられます。

創業は幕末・慶応元年

その後、販路は北海道にまで拡大し、太平洋戦争時は金沢に設置された陸軍第九師団の御用麩商として軍用焼麩を納めました。戦後は昭和天皇・皇后両陛下の石川県入りに際し、すだれ麩を治部煮として提供しています。

この昭和期に、不室屋はメーカー機能に加えて小売機能を強化して事業を拡大します。1953(昭和28)年には法人となり、1957(昭和32)年に金沢市七ツ屋町で工場を新設しました。1973(昭和48)年には業界で初めてとなる麩の小売りを始め、1975(昭和50)年には初のデパート内店舗として、地元・金沢の百貨店「大和百貨店」に出店しています。

母の想いが生んだヒット商品

宝の麩

さて、平成以降の不室屋を語る上で欠かせないのが、お吸い物最中「ふやき御汁 宝の麩」です。お湯を注ぐと色とりどりの麩や野菜があふれ出し、本格的なお吸いものができあがります。味はおいしく、見た目は美しく。観光客にも人気のヒット商品となっています。

この宝の麩には、実は心温まる開発秘話があります。

六代目六右衛門氏は若い頃、海外に留学していました。六右衛門氏の母は遠く離れて暮らす息子が少しでも日本に触れられるよう、最中に麩や乾燥した野菜を詰めて現地へ送ったといいます。湯をかけるだけで、器のなかに日本が広がる——これが現地の日本人たちに評判となりました。

いわば、息子を想って心を込め、ひと手間を加えた母心が、のち1990(平成2)年に発売された新商品「ふやき御汁 宝の麩」の原型となったのです。

カフェ業態に進出

不室屋は日々の商品開発だけでなく、新業態への進出にもチャレンジしてきました。

もともと精進料理をルーツとするといわれる麩。不室屋によると、金沢ではおでんや味噌汁の具として重宝されているほか、京都や東北地方などでは食文化として定着しているものの、それ以外の地域では認知度がまだ低いといいます。

そこで、不室屋は2007(平成19)年、初めてカフェ業態の店舗「FUMUROYA CAFÉ」を金沢駅構内にオープンします。麩を使ったスイーツや軽食を提供する店で、地元客・観光客が行き交うターミナル駅で、麩を使った料理の多様さを紹介してきました。

この出店を皮切りに、不室屋は飲食事業を拡大します。東京ミッドタウンのサントリー美術館のカフェ、大和香林坊店へも出店しています。

また、2014(平成26)年からは、金沢を代表する観光スポット・ひがし茶屋街で「生麩甘味処 不室茶屋」を営業。特製「しら玉生麩」の甘味を提供し、麩の魅力を発信しています。

体験、コト消費に対応

尾張町本店に設けられたフォトスポット

尾張町本店に設けられたフォトスポット

2015(平成27)年は石川県にとって大きな転機となる年でした。それまで長野止まりだった北陸新幹線が金沢まで延伸し、鉄道を利用した観光客数が飛躍的に増えたのです。

また、ここ数年はインバウンドが急増し、金沢では観光スポットだけでなく、路地でも日常的に外国人観光客の姿を見掛けるようになりました。

こうした外部環境の変化に直面し、不室屋も自社商品や店舗の見せ方を工夫し始めました。たとえば、尾張町本店は近江町市場とひがし茶屋街を結ぶ動線上にあり、観光客の往来が盛んになっていることから、2025年に入って店内にフォトスポットを設けました。江戸時代の商家にあった「帳場」を再現した空間で、法被を着て写真が撮影できます。

また、尾張町本店では看板商品のお吸い物最中の手作り体験を実施しています。数十種類の具材を組み合わせ、6種類の出汁や味噌でスープを作れます。

このように、昨今の旅行のトレンドとして定着してきた「体験」や「コト消費」にも対応しています。こうした古き日本を感じられるメニューには、日本人だけでなく、外国人も関心が高いものです。今後は増えゆく外国人客への対応などが課題となってきそうです。

「気品と伝統」

創業時から現代に至る長い年月の間に、政権は徳川幕府から明治新政府に移り、欧米の文化が浸透し、幾度も戦争があって、国内経済の長期低迷や感染症の大流行がありました。そんな中、不室屋は絶えず新商品を開発し、新業態に進出し、そして新たな売り方にも挑戦してきました。伝統食を扱う企業として、どのようなスタンスで時代の荒波に対峙してきたのでしょうか。取材に応じてくれた広報担当者が社員IDカードとともに持ち歩く紙に、こう記されていました。

わたしたちの目的:「気品と伝統」のもとに、食文化に貢献する

一般的に「気品」とは、崇高な美しさのことを指します。創業時から変わらぬ味を守り継ぎ、麩という日本に根付いた食品を後世にまで伝え続ける。それを、あくまで美しく。ここに、独自のフィロソフィー(=哲学)を感じます。食品を彩ることで、食卓を彩り、家庭を彩る。時代やアプローチは移り変わっても、揺るがぬ信念のもとで事業を続ける。石川県が誇る老舗企業です。

 

会社名 株式会社不室屋
創業年 1865(慶応元)年
設立年 1953(昭和28)年
事業内容 加賀麩の製造·販売
従業員数 250人
資本金 1,000万円
本社:〒920-0219 石川県金沢市かたつ1番地
店舗:北陸(金沢・富山)11店、関東(東京・横浜)7店、東海(名古屋)1店、関西(京都、大阪、神戸)6店

 

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著者プロフィール

国分紀芳(くにわけきよし)

Seeds合同会社代表社員。1985年、石川県生まれ。慶應義塾大学商学部を卒業後、北國新聞社へ入社。経済記者として北陸新幹線開業、ホテルやマンションの開発ラッシュ、大型商業施設の相次ぐ進出などを取材する。2022年2月に独立後は各種ライティングやPRコンサルティングなどを手掛ける。https://connect-u.biz/

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